第74回カンヌ映画祭のマスタークラス“Rendezvous avec”に、マット・デイモンが登場。全世界で約28億ドル(約3080億円)の興行収入を上げた映画史上最大のヒット作『アバター』の主演を断っていたことを明かした。
もし『アバター 』のオファーを受けていたら…今頃、宇宙に!?
主演最新作『STILLWATER(原題)』(2021年)の上映でカンヌ入りしたマット。万年青年のような彼も、もう50歳。ハーバード大学の入学願書に「俳優になりたい」と書き、その夢を叶えたが、順調だったキャリアの中にも大失敗があったと明かす。
「『アバター 』という小さな映画があったんだけど(笑)。ジェームズ・キャメロンから収益の10%をギャラとして渡すから出演してほしい、とオファーされたんです。僕は歴史に残るでしょうね。だって、これ以上の金額を断った俳優はいないから」と語ると、会場は爆笑に包まれた。
「キャメロンから連絡があったのは『ボーン・アルティメイタム』のポスト・プロダクション中でした。でも『ボーン』シリーズはいつも撮り直しがあるから、体を空けておいた方が良いと思って、せっかくの話を断ってしまったんです」という、実にマットらしい誠実なエピソードが明かされた。
「少し前に、この話をジョン・クラシンスキーにしたんです。そうしたらクラシンスキーは、うん、うん、としばらくうなずいていたのが、突然立ち上がって、“もし君が『アバター』をやってたら、僕らはこの打ち合わせを宇宙でしてたはずだよ“って言うんですよ」と笑わせた。もし出演していたらアマゾンの創業者ジェフ・ベゾスのように宇宙旅行が出来るような金額だったことを示唆。さらに司会者に「続編もありますよ」と言われると、「続編があるのか。オー・マイ・ゴッド!」と頭を抱えてみせた。
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『グッド・ウィル・ハンティング』のおかけで快適な暮らしを手に入れた!?
35年の長いキャリアにおいて、映画作りの一番のパートナーは、やはり幼馴染で親友のベン・アフレックだと語る。
「僕らはもう40年も一緒ですから。アカデミー賞を受賞したときに、自分の人生のターニングポイントになったと実感しました。どうしても映画に出たくて、そのために『グッド・ウィル・ハンティング』の脚本を二人で書いたんです。その頃、僕らはボロアパートで一緒に暮らしてたんですが、オスカーをもらっていきなり突然、バラエティ誌の表紙を飾ることに。それを持って不動産屋に行き、『この表紙に載っているのが、俺たちだよ。金ならあるから、アパートを貸してくれ!』と言ったんです(笑)。おかげで広いアパートに移れました」
その後、ベン・アフレックが監督としても成功している一方、マットは未だ監督には挑戦していない。
「監督をするチャンスは何度かあったんです。ガス・ヴァン・サントが監督した『プロミスト・ランド』も当初は出演、脚本だけじゃなく、監督もする予定だったし、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』も監督をするつもりで企画をしたんです。でもケネス・ロナーガンの脚本を読んだ後、『ケニー、これは君が監督をするべきだ』と伝えました。僕は主演するつもりでいたんだけど、『オデッセイ』の撮影とぶつかってしまって。もし、僕がこの役を譲るならケイシー(アフレック)しかいない 、と思って彼にやってもらったんです。でも、ケイシーが主役では資金調達ができないと言われてしまったんですが、最終的に若いプロデューサーのキンバリー・スチュワードが全部を引き受けてくれました。彼女は立ち上げたばかりの会社を、この映画に賭けてくれたんです。英断でした」と語った。
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観客から、「名声と、私生活をどのように分けているのですか」と聞かれたマットは、「良い質問だ」として、自分がハリウッド・スターにありがちなスキャンダルに無縁なのは、「僕があまりにも退屈な人間だったからだよ」と語った。
「雑誌を売るには、セックスとスキャンダルが必要。でもカメラマンがいくら僕の家の前ではっていてもお金にならないから、もう関心を持たれなくなったんです」
警備員にブラッド・ピットのファンだと間違われた!?
名声の持つ狂気に呑み込まれてしまう人々も多いが、その点で、友人であるブラッド・ピットの凄さを語った。
「ブラッドほど正気な人間はいないでしょう。『オーシャンズ12』のプロモーションで、ブラッドと、ジョージ・クルーニーと一緒にモナコグランプリに行った時のこと。人々はとんでもない熱狂ぶりで、まさしく狂気と言えるほどの大混乱でした。僕は警備員にファンと間違われて捕まりそうになり、『僕はブラッドの連れだよ!』と叫びながら、やっとの思いで会場に向かったんです。ところが、当のブラッドはまるで食料品屋に行くかのように、その中を歩いていったんです。まったく平静なまま。僕は怖くて妻にしがみついていたというのに」
マットの誠実な人柄と頭の良さがわかる70分間だった。
取材・文:石津文子